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JCDAジャーナル

2015年11月号 No.57

嬉しさを感じる経験代謝

2015年11月27日 11:37 by jcda-journal

嬉しさを感じる経験代謝

JCDA認定スーパーバイザー澤木直人

 最近、『以前の自分なら』という言葉をよく使っているように思います。
私は民間企業に勤めていますが、入社以来、人事異動で名古屋市にある本社とそこから25km ほど北にある小牧市の事業所を何度か往復するような転勤をしています。
以前はどちらへも車で通勤していたのですが、昨年小牧への転勤が決まったときには駐車場不足の問題もあるようで、新ルールに変更されていました。
それは自宅が最寄りの駅から半径800m 以内にある従業員は、指定の駅まで電車で移動し、そこからは会社のシャトルバスに乗って通勤するというものでした。私の自宅はその指定駅の近くなので、そこまでは徒歩で、駅からはシャトルバスに乗って通勤する手続きをしました。
しかし、シャトルバスの始発が7:30 ということで、朝早く出社してメールチェックをしたい自分にとっては適さないものでした。結局、ほとんど毎日、朝は約40 分の徒歩通勤をしています。以前の自分なら愚痴をこぼしながら通勤していたと思うのですが、今では健康診断の数値とともに自分の心身が『進化』していくようで、あまり苦に思うことはありません(笑)。

Wolikng朝の出勤途中に歩きながらいろいろなことを考えたり、思い出したりするのが日課になってきました。ある朝、少し前に妻と久しぶりに美術館に行ったときのことを思い出しながら歩いていました。
それは地元の美術館で、毎年1 回か2 回のペースで妻と訪れている馴染みの美術館です。入口までは一緒に行くのですが、途中からはそれぞれのペースで美術鑑賞をしています。妻はほぼ同じペースで、私は作品によって素通りしたり、立ち止まったりします。先に進んでいた私は、ある絵画の前で立ち止まってじっと作品を見つめていました。その絵画はいつ来てもある作品なのですが、美術館の内装工事があった後で、レイアウトや照明の位置が変わったせいか、何となく違ったものに見えて気になり、じっと見入っていたのでした。
そこへ妻が隣に来て、『相変わらず心が落ち着くね』と囁いたのです。相変わらず?と違和感をもった私は『場所と照明が変わったよね?』と小声で言ってみたところ、妻からは『でも作品は変わらないでしょ』と返ってきました。妻も私も、その作品を素晴らしいと思いながら、妻は変わらず素晴らしいと言い、私は以前と違って観えたものに素晴らしさを感じたものの、同じように見える作品は素通りしていたのでした。正直言って、同じ美術館で、同じ作品を鑑賞するのは好きではなかったのですが、久しぶりに楽しめた感じがしました。

責任何年か前からJCDA の研修で経験代謝を学ぶようになり、自分の自己概念に名前をつける研修に参加しました。自己概念の名前は何度か変わりながら、最終的には『進化』という名前がつきました。この名前になってから、それまでは意識もしなかった過去の経験が湧き出てくるように思い出され、ときには自分で思い出し笑いをするくらい、それが楽しみになっています。
また、過去のつらかった経験をあらためて経験代謝の観点で振り返ってみると、以前とは異なる見方をする自分がいたのです。 私はここ10 年ほど、企業の企画部門に所属していることもあって日常の仕事では会議が多く、 侃々諤々になることもあります。以前の私は、常に自分の意見をもち、それをみなに説明し、説得することに時間を費やしていました。異論反論が出れば、まだ自分の言いたいことが伝わっていないと思い、何度も繰り返したり、表現を変えて説明し直したりしていました。
5 年ほど前に、社内で組織再編があった際、ISO9001 に基づいて管理している規格と作業標準を全面改訂しました。120 名ほどの部門で管理職は15 名でしたが、その改訂は結構大変な作業でした。しかし、複数の部署が合体し、作業プロセスが変わったせいか、業務不具合が散発していました。複雑
1 年経過してもあまり変化がなかったので、管理職会議で作業標準の見直しを提案したところ、ほとんどの人が反対意見でした。作業標準は、みなさんにとっては監査対応ツールでしかないのかもしれませんが、本来は教育訓練に活用されるものであり、業務不具合発生時には作業標準を再確認し、効果が認められなければ作業標準の見直しが必要であることを何度も訴えたのでした。2 回目の会議以降、現行の作業標準が『色あせたもの』、『使えない過去のもの』、『改訂しないと自分たちは成長できない』という思いがこみ上げ、当時は怒りと寂しさを交互に感じるような複雑な思いの毎日でした。
このことは、ロールプレイングでも何度か相談していたのですが、毎回、当時の状況説明と気持ちや考えたことを伝えたところで時間切れになっていました。自己概念に『進化』という名前がついてからあらためて振り返ってみると、『進化』を求める自分は、変わらないもの、『進化』しないもの、に価値を感じないということに気づきました。ふと思い出したのは、小学生の頃から大嫌いだった勉強も、昔から変わらないことを暗記してどうなるのか、という気持ちがあったし、歴史的建造物や骨董品のようなものに興味が湧かなかったのもそのためかもしれない、と思いました。『業務不具合は作業標準の見直しをしないからだ。』と責任転嫁したり、寂しくなったり、それは自己概念を否定的に捉えたために湧き上ってきた感情なのかもしれません。自分の自己概念は『進化』なので、作業標準の良いところを残しつつ、改善することで『進化』を求めていたのか、と考えると気持ちが楽になり、なぜみなさんがそれほど反対していたのかを聴いてみたい、それぞれの自己概念や価値観を踏まえて建設的な議論がしたい、と思いました。自分や組織の『進化』のための行動特性なのでしょうか。このとき、自分の中で『経験代謝』が起こったように感じました。以前の自分なら、何度振り返りをしても自分と向き合うことはなく、イライラしながら説得を続ける自分を正当化していたのかもしれません。説得経験代謝を学んだ際、『経験の再現』という用語がありました。前述の徒歩通勤、美術鑑賞、作業標準改訂の提案という3 つの経験は『経験の再現』で、それらの経験は『進化(私の自己概念)』という共通のテーマでつながっている感じがしました。マーク・サビカスの『金の糸』という理論で説明できます。みなさんは、いくつかの経験が共通の何かでつながっていると感じたことはありますか?そのようなことを意識してみると自己概念に名前がつきやすいのかもしれません。 前述の経験代謝が起こったときのことを含め、自己概念である『進化』を通した見方やいろいろな経験にこれまではしていなかった新たな意味づけができるようになったあたりは『意味の出現』と言えるのでしょうか。そして、作業標準の改訂を提案したときの経験では、以前の自分ならイライラしながら説得を続け、それを聞かされるほかの管理職との人間関係も悪化していたのかもしれません。ふと、経験代謝のことや『進化』という自己概念を思い出し、見方も変わって他者の意見も聴いてみたくなった自分は、『自己概念の成長』を感じた瞬間でもありました。自分の心中や振る舞いの変化によってみなさんとの信頼関係が深まり、スムーズなコミュニケーションが可能になり、建設的な議論ができるようになりました。最近は会議やプライベートでも、ふと、経験代謝のことや『進化』という言葉を思い出し、以前の自分ならカチンときていたことがそう思わなくなり、知恵を結集してさらに良いものにしたいと、それぞれの意見や価値観に好意的関心をもって聴くことが徐々に増えてきました。それが『意味の実現』を実践できるようになりつつあるということなのかな、と実感しています。 経験代謝を理論として理解しようとすると難しいイメージがありましたが、自己理解を深めて自分と向き合うことの大切さを痛感してからは、キャリアカウンセリングでも『クライエントの経験の再現や自問自答を促し、より深い自己理解に導く能動的な働きかけ』が大切なのだと、あらためて思いました。以前に、『自分の自己概念に名前がついたり、経験代謝を実感すると嬉しくなりますよ』と聴いていましたが、本当に嬉しくなりました。私の場合は、より深い自己理解とともにいろいろな経験が湧き出るように思いだされ、さらに、以前より素直になれた自分、というのも感じました。この嬉しさの感じ方は十人十色なのかもしれません。みなさんは、このような嬉しさを実感されましたか? ぜひ、みなさんと一緒に学び合い、一人でも多くの人とこの嬉しさでつながっていきたいと思います。

 澤木 直人プロフィール
1963年愛知県生まれ。企業の企画部門で人材育成プログラムを開発。その中でキャリアカウンセリング制度を導入し、自らも社内カウンセラーとして活動した。第2 回キャリコン大賞受賞。
◇ F3 研究会座長(企業におけるキャリア開発支援とキャリア開発研修)
◇ JCDA 認定ピアファシリテーターを経て、現在はPF アドバイザー
◇ JCDA 認定スーパーバイザー

 特定非営利活動法人日本キャリア開発協会

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