写真:スタッフと小田さん。お店の前で。
-具体的にどのような障がい者支援を行っているのですか?
僕は「(障がい者が)働く場を作る」、つまり(障がい者が働く)現場に関わり、実際にみんなと一緒に働くことをとにかくやってみたかったんです。そして、より地域に根差した支援が増えていくことを目指したいと思い「こなこな」を始めました。実際に「現場」に関わるようになって、日々さまざまな楽しいこと、難しいことにぶつかりながら、みんなで成長しているという感じでやりがいがあります。思っていたことと違う嬉しい驚きというのは、みなさんハンディキャップを抱え込んでいて、いろいろと生きにくさがある中で頑張ってくれることです。親御さんや周りの方が(働くことが)無理じゃないの?と思っていたこと自体が、こうやって働くことの足を引っ張っていたけれど、実際はそうではないことがまざまざと見える、そこが一番の醍醐味です。
-みなさん、想像以上に動きや言葉がスムーズで、楽しそうに接客してくださることに驚きました。現在のスタッフの構成は、療育手帳を持っている知的障がいの方が4 名、精神障害者保健福祉手帳をもっている方が5 名です。お客様はみなさん、「従業員がハンディキャップをもっているということがわからない」と言いますね。この店は開店して5 年目ですが、最初の1 年目はもうとんでもない状態でした。お店をオープンする前は、1 ヵ月間、店を開けずに中でトレーニングをしました。何しろゼロからのスタートだったものですから、覚えることが多いうえに、オペレーションが回らないから、メニューも今の半分くらいしかなかったんですよ。1 年目は(メニューに)かき氷もなければ、持ち帰りも手が回らなくてできなかったのでありませんでした。あっちも、こっちも、というのは難しく、メニュー一つ増やすことで、気持ちの面でも不安になってしまうんです。でも、自分たちで考えながら少しずつ増えてきました。
写真:テイクアウトもできます。持ち帰りはこちらの窓から。
精神障がいの方は、体調や気分のいいときとそうでないときの波が大きいので、本人にやる気があっても気持ちが付いていかないということがあり、それが身体的な支障につながるときもあります。仕事はやりたいけれど体がいうことをきかない、というパターンが多く、そういう状況をどうやってフォローしていくか、試行錯誤中です。不安をしっかり聴き取ることと、加えて、採用する際に把握したアセスメントが、これから先うまくやっていけるかどうかの決め手になるので、すごく大事です。この両面で、CDA で学んだスキルがとくに役立っています。
-みなさんは「(将来)やりたいこと」をもっていらっしゃるのですか?いいえ。障がい者の方は、先の具体的なイメージをもつことが難しく、(将来の)見通しを立てるということがうまくできない方が多いです。けれども働き始めてできることが増えてくると、少しずつ自信もついてくるし、自己効力感が増します。時間はかかりますが、たぶん無理だろう、できないだろう、ということを一つ一つ支えて、「これできたじゃん」「あれできたじゃん」ということを積み重ねていく感じです。とにかく、文字通り、一歩一歩、です。また、状態も日々違いますから、そういった点のフォローも必要です。たとえば、先々月にお祖母さまが亡くなられて、大きなストレスですごく落ち込んだスタッフがいます。そこの犬の写真は彼の犬で、ナナちゃん。それが彼の支え。最初、ほかのスタッフが絵を描いて貼ってくれたのだけど、「本物がいい」と言って写真を貼りました。
写真:看板メニューの豚玉。
なんら健常者と考え方は変わらない。ただ、気持ちの切り替えや受け入れ方が少し下手だったりするので、こちらが一人一人の特性をしっかり把握したうえで、こういう言葉かけがいい、とかこういう励ましがいいとか支えていかないといけません。そこは一番気を使うところです。それに、過去の経験をほぼ100%、必ずマイナスに捉えているので、マイナスイメージの経験代謝が起こりやすい。それをうまく方向転換して、(過去の経験の)見方を変えるというところに、すごく力を使っています。終業後の30 分間は「振り返り」の時間を設けて、一人一人なんでもいいから発表することにしていますが、必ず失敗したことを挙げます。だから、いいことも一つ見つけて発表するようにしていますが、同じものを見ても、悪いところしか見えない癖がついているのでなかなか出ない。他の人がいい点を言えたときに、自分もできたことに気づくこともありますが、逆もあり、一人がマイナスのことをいうと、引きずられてしまう。だから、プラスの方に目を向けさせることがとても大事です。また、3 ヵ月に1 回目標をたてて、どこまでできたか、を確認することを繰り返しています。自分の(体の)状態を把握できていないために体力的な不安がある人が多くて、そこも鍛えていかなければならないし、ここでの仕事を通して自分のいいところがどこなのか、ということを自覚してもらうのが、この仕事を通して(僕が)やりたいことなのかもしれない。そうして、だいぶ自覚できるようになり、体もついてくるようになったら卒業ですね。
写真:オープンキッチンの鉄板。カウンターのお客様とも話が弾みます。
(全員に)共通しているのは、やっぱりお客様から帰り際に、「おいしかったよ」と一声もらうことで、これが一番のやりがい。調理担当は、できるようになることが増えていくこと。ホール担当は、お客様の状態に敏感なので、機嫌の悪いお客様がいると感化されてしまうけど、優しい言葉をかけてもらうと、俄然やる気が出てきます。
-業務外のレクリエーションなどもなさっていますか?ええ。彼らはこれまでの経験が本当に少ないので、まず1 年目にやったのは忘年会です。みなさん、忘年会をしたことがなければ、居酒屋にも行ったこともなかった。ほかのお店で食べて雰囲気を見ることも勉強になりますし、今では毎年しています。花見もしたことがない、ということで、花見もやりました。そうやって、外に出る機会を作っています。とにかく仕事だけでなくいろんな経験をして、自立してやっていける、というところまでにならないといけませんが、現状は一人暮らしもしたことがないし、将来への具体的なイメージがもてない、という状況です。自立する必要がある、ということはおぼろげにはあるのだけど、金銭管理はほとんど親御さんがされているケースが多いですし、経済的なことも含めて混沌としている。9 人のスタッフのうち、すでに一人暮らしをしているのは1 人だけです。
写真:「美味しかったよ」と笑顔で出て行くお客様を見送り片づけ。
前者です。コンビニで買い物するぐらいはできるけれど、それ以上のことはわからない人が多い。一人暮らしをするために必要な費用や、税金はどの程度払う、さらには、結婚するにはこれぐらい費用がかかるなど、今年の春に、世間の相場の研修をしましたが、ピンとはきていないのではないかな。つまり、働く場の提供と給料を出すだけでは全く駄目で、いろんな問題を自分一人で解決することが難しいから、そこも支援しなければならないのです。本当に漠然としていますが、今ではみなさんそれぞれに目標もあるようですから、それも少しずつ形にする支援をしてあげないといけません。一方でここにいる期間が長くなると居心地がよくなってきて、ここでずっと働いてもいいかな、という雰囲気になるので、ここはひとつのトレーニングの場所だよ、と伝えています。伝えているけれど、(彼らには)5 年先の想像をすることが難しいので、結局自分の目標に対して達成しようという意識は薄い。少しずつ先を考えるための話はしているけれど、具体的な想像はできないのかもしれません。結婚したいとか、そういうこともまだまだ自分自身に落とし込んだイメージが持てない。 それから、障がい者の方はこだわりが強い方が多く、それが、正確にきっちりと仕事をすることにつながるよい面も多々ありますが、逆に細かいところが気になっちゃって、そこから前に進めない、などといった形で出る場合もあります。また、季節変動で結構体調を崩しやすかったりするし、プライベートの状況も直結して現れます。とにかく、何が原因でどのように調子が悪いのか正しく把握する必要がある。特効薬はないけれど心持ちや考え方の部分で、支援します。僕はキャリアカウンセラーですが、実際は生活支援の相談の方が多い。しかし、生活がしっかりしないとキャリアを考えるには至りませんから、こうやってまず土台作りです。
-学校でキャリア教育に力を入れることが必要ですね。キャリア教育がとくに彼らのような人に必要です。一人で判断したり選んだりすることが難しい人が多いので、一人一人相談にのって支えてあげる必要があります。福祉就労や就労先も含めてのフォローと、進路指導にはもっと時間を取るべきです。支援学校の先生方も熱心に勉強されていて、ここにもよく見学に来られます。
写真:日曜日の昼下がりはいつまでもお客様が絶えません。
ええ。何より、こうやってスタッフと関わり、見守り、支援することは、難しいことが多いですが、面白いです。同じ場面で同じものを見ても、全く人によって違う「個性」が顕著です。僕達は法人として、地域の中で障がい者の方たちが個性として受け入れてもらえる、そんな許容量が広い地域を目指しています。
-地域への働きかけはどのようなことをなさっていますか。商工会議所に入ったり、ブログやフェイスブックで呼びかけたりしています。ここは企業城下町で自動車関係の下請けが多く、そういう中小企業が(障がい者を)雇い入れることができるのはもう少し先の話で、セミナーなどで一歩ずつ、です。浜松には2 つの大きな福祉団体があって、それが古くから(福祉就労を)支えてきたけれど、時代が変わって今は「インクルージョン」の考え方が広まってきたから、僕達は街の暮らしの中に(福祉就労が)入っていくことを進めています。
-こちらをこの場所に決めたのも、障がい者の方の過ごす施設や働くところが街から遠いところが多いから、住宅街に、とのことでしたよね。はい。どこの土地もおそらくそうだと思いますが、土地が広くて、安くて、というところで箱モノを造るとなるとそうなってしまう。浜松でも同じで街中にというのはどうしても難しい。ところが、当然ですが障がい者の方も住み慣れたところで暮らしていきたいし、働く場所もやはり、街中にあるほうがいい。また、街中であれば、多くの人と触れ合うことで社会性も身につくし、存在意義を感じられる。この辺は住宅街なのでお客様も割とご家族連れが多くて、夜はお酒も出るので、最近はお好み焼きデートのカップルも増えてきました。だから、このお店のキッチンもオープンにして相手が見え、キッチンでもホールでもお客様と直接関われるようにしています。
-最後に、これから、障がい者支援に関わっていきたい、というCDA の方へメッセージをお願いします。大それたことは言えないけれど、何よりきちんと向き合うこと。そうすると、目の前にいる人は、なんら僕と変わらない人なので何かお互いにできることがある、という目で見られる。そして、障がいのあるなしに関わらず、人が育つことに関わっていくことなので、スタート地点でまずしっかり理解すること。できないことを書きだして課題を見つけることは簡単だけど、そうではなくて、どこが成長したら前に進めるのか、ということを理解してサポートすること。CDA 取得の際に学んだ知識やスキルは「この技法をつかうぞ」と意気込んだり構えたりするのではなく、真摯に向き合うことで自然に役に立っています。
-ありがとうございました。
<取材を終えて>
当日、明るいスタッフに迎え入れられ美味しいお好み焼きとともに障がい者支援の現状や、小田さんの熱いおもいをお伺いできたことは貴重な機会でした。私自身、日常生活で障がい者の方と接する機会はあまりなく、それは「こなこな」のように日常生活に障がい者の労働の場が極度に少ないことを意味していることに気づく重要な1 日にもなりました。ダイバーシティの観点からも、全ての人が性格・特徴・ハンディキャップなどを個性として受け入れられる街づくり、国づくりにCDA として自分はどのように関わっていくのか、いっそう考えていきたいと思います。
聴き手:JCDA 広報ボランティア 辻 香奈美(CDA139413)
小田 敏行 プロフィール |
1959 年、神戸生まれ 2000年に、IT 教育、研修会社 株式会社アイティープランニング設立 代表取締役 2006年より、特定非営利活動法人 地域生活応援団あくしす 副理事長 2009年に第27 回CDA 資格取得(CDA137796) 介護福祉士、調理師 |
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