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【JCDA創立15周年記念特集(最終回)】経験代謝における自己概念の成長~2/2

2016年12月15日 16:01 by jcda-journal
2016年12月15日 16:01 by jcda-journal
【JCDA創立15周年記念特集(最終回)】経験代謝における自己概念の成長~1/2の続き…(1/2の記事はこちら

<自己概念は成長しようとしている>
―経験代謝のドライビングフォース

自己概念の成長について別の角度から考えました。

人は苦い経験を「受け入れる」ということをします。「受け入れる」を言い換えると「認める」とも言えるのではないでしょうか。この言葉、改めて考えてみれ ば矛盾を含んだ言葉です。「否定」している経験をどうして「認め」ることが出来るのでしょうか。どうして「認めよう」「受け入れよう」と努力するのか、" 努力” の言葉に抵抗を感じる方もいらっしゃるかも知れません。言い換えるとどうして敢えて" 考えよう” とするのか、とも言えます。ドライビングフォース

この問題を考えることが何につながっているかというと、経験代謝のドライビングフォースは何なのか、経験代謝サイクルを回す力は何なのかという問題意識です。経験を再現する力は記憶力、認識力、表現力の問題かも知れません。ではその経験の意味を" 知ろう”、" 考えよう” と心が動く、背景の意図は何なのか、という問題提起です。

2009 年から皆さんにご提示してきた論文「キャリアカウンセリングとは何か」は、CDAの皆さんにまさにその表題通り、キャリアカウンセリングとは何かを考えて 頂く為の問いかけでした。これから展開する考えも私が形而上学的に考える仮説です。皆さんにもお考え頂きたいと思います。

日常生活の小さな経験から人生の転機になるような重大な経験まで、そのような経験から意味を見出す、意味を見出そうとするのはいったいどういう心理なの か、と考える訳です。
こんなお話を聞きました。ある方の子供のころの思い出話です。友達の家に遊びに行った時のこと、その友達は遊びに来た何人かの友達に 自分の板チョコを割って分けてくれたそうです。その方はそれを見て驚いたというのです。なぜかというと板チョコを割って他人と分ける、という発想がそれま で自分には無かったそうです。どうして自分はそういうことを思いつかなかったのかと考え、自分が一人っ子であることに思い至ったという事でした。「経験から学ぶ」という例として面白い話ですし、経験の自分にとっての意味、という観点からも考えさせられる話です。しかし、ここでこの話しを提示したのはそうで はなく、経験代謝のドライビングフォースを考えるためです。

どうして「板チョコを割って他人と分ける」という出来事に遭遇し、それを通して自分を振り返ろうとしたのか、を考えてみよう、ということです。これに類した経験は皆さんもこれまでにきっといくつかは経験されているのではないかと思います。思い出してみてください。

経験代謝のドライビングフォースを考えるに至ったもう一つの例をご紹介したいとおもいます。これはアメリカのナラティブセラピーの研究者、マイケル・ホワ イトの「ナラティブプラクティス~日常生活での多様性の発見~」という本に掲載されているホワイトが行ったあるキャリアカウンセリングのやり取りの中から です。

クライエントはある機関で働いているカウンセラーです。彼はどうも自分をカウンセラーとしては不適格だとの思いが強く、いろいろ努力しているがうまく行か ない、自分はカウンセラーに向いていないんじゃないか、と悩んでいます。彼は、ホワイトのところに勤務先からの紹介でやって来て、今までどんな努力をして来たか、それらが如何に功を奏していないかを話します。いろんなやり取りの後、彼が働くセンターで、クライエントにどのように接しているいかの話になり、「ただ自分は誠実に接することを心掛けている」と話します。するとホワイトは「誠実ですか、興味ありますね、誠実についてもう少し考えてみませんか」と持掛け、クライエントも「誠実」について考えることに興味を示し、掘り下げて行くことになります。

確かに「誠実」という言葉を言ったのはクライエントです。それをホワイトは鋭くキャッチして投げ返す訳ですが、興味を持って考える意欲を示したのはこのクライエントなのです。もちろんホワイトに強制された訳ではありません。

誠実

ここでテーマにしている経験代謝のドライビングフォースを感じます。どうして彼は「誠実」を考えてみようと思ったのか。
いきなり結論ですが、経験代謝のドライビングフォースを2つ考えました。

キーワードは「在りたい自分」です。似た表現で「なりたい自分」という言葉も考えられますが、「なりたい」が含んでいる言葉のニュアンスは、「スポーツマン」とか「実業家」とか具体的なゴールを想定させます。一方、「在りたい」には具体的ゴールではなく、定性的、概念的なものという意味です。そして 「・・・たい」という言葉、自発的とか進んで、などのニュアンス、その方向に向かうエネルギーをこの「・・・たい」に込めました。

ドライビングフォースの一つは「在りたい自分に近づきたい」というもの、また、同様な意味で「在りたい自分を知りたい」と表現することも出来ます。

そこで「在りたい自分」とは何かを考えたいと思います。それは人生の様々な経験、その経験から得られた様々な認識、その認識が統合されて自己概念が形成されるのだと考えています。その統合の方向が「在りたい」ではないかと考えます。走るのが速い、背が高い、力が強い、率直な性格だ、などの認識が「在りたい」方向で統合され、明るく 朗らかで一本気な「スポーツマン」を自己概念として持ち、様々な経験を「スポーツマン」の方向から意味を創って行くのではないか、考えました。「スポーツ マン」という自己概念を持った人物が「スポーツマンとして在りたい」というドライビングフォースの下に経験から得られた認識を統合して「スポーツマン」と いう自己概念の成長を図って行くイメージです。

自己概念

自己概念は"目標” や" あこがれ” ではありません。自己概念は今あるその人の中にあるもの、でもそれは完成された静的なものではなく、絶えず経験から何かを取り込もうと活動している(経験代謝している)動的なものではないかと考えるのです。分子生物学者、福岡伸一さんがその著書「生物と無生物のあいだ」のなかで、生物の特徴として書いてい らっしゃる「動的平衡」、自己概念の特徴もこの動的平衡ではないか、自己概念も生物の特長を備えているのではないかと思うのです。

経験代謝の中で、キャリ アカウンセリングは自己概念の成長を促すものだ、と定義づけて来ました。つまり、自己概念という概念自体に「在りたい」方向を模索し、近づこうとする力が 内包されていて、その力が発揮されるメカニズムに手を貸すのがキャリアカウンセリングだと考えます。経験代謝のドライビングフォースを2つ考えた、と申しました。その2つ目です。

それは、「経験と自己概念との一致を保とうとする力」ではないか、と考えます。

しかし、これは独立したものではなく、先の「在りたい自分を知ろう、近づこう」というのが基本にあり、その現れ方を経験に対する対応の中(経験代謝の中 で)で表現するとこのように表現出来るのではないか、ということです。

「在りたい自分に近づこう、知ろう」とする力が一次的、この「経験と自己概念との一致を保とうとする力」が二次的力ということです。このような力の存在を前提にすると冒頭定義した疑問、どうして「知ろう」「考えよう」「認めよう」「受け入れよう」とするのか、そしてその受け入れる方向、また2つ目の力の観点から言い換えると、一致の方向からも説明できるのではないかと考えます。

そして何よりCDAがクライエントのキャリア形成、つまり自己概念の成長を支援するというキャリアカウンセリングそのものの基本構造を理解する上で大きなヒントになるのではないかと考えます。

特定非営利活動法人日本キャリア開発協会

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