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2017年08月10日 12:10 by jcda-journal
2017年08月10日 12:10 by jcda-journal

「私、何も社会の役に立っていない…。仕事をしたり、お金を稼いだりしない…。ただ子どもを育てるだけの専業主婦になっちゃったの…」

この言葉を初めて耳にして衝撃を受けたのは、私が20 代後半の時でした。「子どもを授かったからには、一緒にいる時間をたくさんつくって、自分ができる限りの手間暇をかけて子どもの成長を見守りたいのよね」と仕事を辞めた友人が、数年経たずして言った言葉です。その後、私も二人の子どもを授かり、長男が小学校に入学して親としてPTA 活動に関わるようになると、いわゆる専業主婦のママ達からも全く同じ言葉を何度も耳にすることになりました。

当時のPTA 活動は、平日の昼間に相当な時間を費やさないと活動ができないような体制で、運用のしかたも硬直的であったために「働いているママvs. 専業主婦のママ」(※本来は父母ともにPTA の主体)という対立構造が顕在化する状況になっていました。

そこで、それぞれが抱える想いや背景を知りたいと思い、長男が小学校に入学して以来9 年間近く、費用はいただかないものの、面談構造を設定したうえで、ママ達にキャリアカウンセリングを実施してきました。
個人情報の保護と誌面スペースの都合で、だいぶ雑駁とした描写になることをお許しいただきたいのですが、以下は、その事例の一部です。

◆「専業主婦のママ」
昼間、地域内にいることが多いので、学校への連絡(直接、言いに行かなくてはならなかった)や調整、交通パトロールや資源回収などPTA 活動の"雑用”を全部押し付けられていると感じている。また家庭内においても、「働いていないのだから…」ということで、子どもの世話や教育、子どもの友人関係の調整などだけでなく、家事や老親の介護などを、夫婦で気持ちよく分かち合い、協力関係を築きたいと思っていることを夫に伝えられずに思い悩む。他の誰に頼めるわけでもなく、ましてやアウトソースすることもできず「最終的にやらなくてはならない人」と自らを位置づけ、体力的にも精神的にも追い詰められていっぱいいっぱいになって過ごしている。このまま、ずっとこのような毎日を過ごすのだろうか?と見通しがつかない不安を抱えている…etc.

◆「働いているママ」
就業先の業務を疎かにすることはできず、職責を全うしながら、1 日24 時間の限られた時間のやりくりにはとても苦労している。「働いているんだから、学校や地域のことなんてできないわよ」と言うママもいる一方で、親としての役割を学校や地域で担いたくても担いようがないことに悩んだり、ママ友との情報交換やネットワークを築けないために、「孤育て」になってしまって不安感を抱えていたりする。あるいは、働く時間を確保するために、稼いだお金で子どもの放課後や休日を塾や習い事で埋め尽くすことに、矛盾と疑問を感じながら過ごしていて、このままでいいのだろうかと思っている…etc.

いかがでしょうか? PTA という環境においては二極対立のように見える「専業主婦のママ」も「働いているママ」も、置かれた環境の中で、それぞれに、よりよく生きたいと思っている人達であることがわかります。

スーパー(Super,D.E)のキャリア定義(※ 1)によれば、PTA 活動は、間違いなくキャリアの一部で、ママ達のライフキャリアを構成するものです。また、「キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系(※ 2)」によると、キャリアカウンセラーは、個別相談を中心とした個人への援助活動だけでなく、「環境への働きかけの認識と実践」をしていくことも求められています。

すなわち、ママ達の個別相談だけでは解決できないPTAとそれに付随する環境の問題点の発見や指摘、改善提案などの環境への介入、環境への働きかけを関係者と協力して行うことなど、企業でいうところの「職場環境改善」に準じた働き掛けを行うことが、PTA に関わるママ達をはじめとする関係者のキャリア形成支援に役立つ、ということが言えるのではないかと思い、PTA 副会長1年プラスPTA会長2 年を務めました。

キャリアカウンセラーがPTA会長をする意義は2 つ挙げられるかと思います。
①組織の中で個人の成長を支援する役割を担うカウンセラー」的能力や視点を持って関わることで、個人はみな違うという前提に立ち、日常の活動の中で、そこに集う人々それぞれの持ち味を発揮できるような環境づくりや各自への働きかけができる可能性がある。
②日頃からの地道なキャリアカウンセリング的関わりの積み重ねが、個人の成長を促し、組織全体の活性化につながっていく可能性がある。 
それでは、ここにPTA会長就任中に実施した具体的な環境改善活動の一部を紹介します。

◆クラスや役員での自己紹介に一工夫
変える前は、ママ達の自己紹介といえば「3年2 組の〇〇の母です。6 年生にお兄ちゃんがいます。そのせいか、うちの子、少し乱暴で、クラスのお友達にご迷惑をおかけてしているのではないかと思っています。それで結構悩んでいます…何もわかりませんが、迷惑をかけないようにやっていきたいと思います。がんばります。どうぞよろしくお願いいたします」といったもので、ママ自身がどのような人なのかわからないものが多かったのですが、ママ自身のことを知ってもらえるような自己紹介の仕方を提案・導入した結果、写真のような個性豊かなママが見えてきました。
◆ママ達が持っている個性や能力が活かせる場を用意
新しい自己紹介の中から、ママが持つ個性や能力が見つけやすくなりました。
以前は、字だけで堅苦しかったPTA からのお知らせを刷新。視覚的にも目をひき、かつわかりやすいマンガを即導入。

◆対話を通じての想いの共有、方向性の確認
従来のPTA は引き継ぎ時にマニュアルだけ渡されて、それをその通りにやるだけ。創意工夫などの余地はなく、毎年毎年、淡々とマニュアルにある手順通り、決められたものをやって任期をしのぐということが常態化。
助け合う関係ができていないので、役員や委員になったら最後、いろいろな事情を抱えながらも一人でやらなくてはならなかったりして、精神的に追い詰められる人も…。

「どうありたいのか?どんな活動にしていきたいのか?」 を語り合うワークショップを開催することによって想いを共有して、お互いをサポートできるような関係性を構築。

◆語りを通して、自分語りを変えていく〜各委員との面接
役員・委員の1 年間の任期終了前に「1 年間の活動の振り返り」をグループカウンセリング
「1 年間の活動で一番大変だったのは、どんなことだったの?」
「それをどうやって、みんなで乗り越えたの?」
「次にもう1 回、似たようなことがあったら、どうしたい?」
「誰が助けてくれたの?」
「どうやってそれができたの?」
最後に互いのgood point や感謝の気持ちをプレゼントしあう。

このような、さまざまな「環境への働きかけ」により、少しずつPTA 活動に関わるママ達やPTA という組織が活性化してきました。
・PTA 役員や委員をやってもいい、という人が増えた(会長2 期目の時には、新役員全員が立候補)
・PTA 役員を続投してくれる人が出てきた
・一般のPTA 会員が、新たな課題を見つけ、会員主導で新しいプロジェクトが誕生
・ママ友と子育てサークルの活動を本格的に始めた
・ハローワークで職業訓練を探し、就職に向けて学び直しを始めた
・保育士さんになりたかったことを思い出し、委員の任期終了後に、保育士養成学校に通い保育士さんとして勤務開始 …etc.

「私、なにも社会の役に立っていない…。仕事をしたり、お金を稼いだりしない…。ただ子どもを育てるだけの専業主婦になっちゃったの…」
こう思っていた専業主婦のママ達も、個人だけでなく、環境への働きかけを通して、より良く生きる道を模索し一歩、あるいは半歩踏み出せていたらいいな、と思っています。

みなさんご存知の通り、昨春、国家資格キャリアコンサルタントが誕生しました。キャリアコンサルタントが次々に誕生する一方で、キャリアコンサルタントがお金を得て働く"マーケット”はまだまだこれから…といったところです。すでにでき上がっている"マーケット”を取り合うだけでなく、私たち一人ひとりがキャリアカウンセリングの有用性を体感してもらえるような活動を、地道にやっていくことも必要なことかと思っています。

私個人としては、キャリアカウンセリングを生業とする一方で、心のどこかで「キャリアカウンセラーが大活躍する世の中にはならないほうがいいのではないか?」と思っています。誤解をされそうな言い方ですが、キャリアカウンセラーという"専門家”がいないと自分自身のことがわからないよりは、キャリアカウンセリングのマインドや技法が一人ひとりに内在化され、"専門家”に頼るのではなく、一人ひとりが持つライフスキルとして互いに関わりあえるような世の中のほうが、きっと良い世の中のように感じるからです。
そのような世の中になることを、まだまだずっと先の話だと思いますが、あたかも北極星を目指しながら進むようにして、私たちそれぞれが置かれた環境の中で活動をし、そのための学びや研鑽を続けることが大切だと思います。

スーパーのライフキャリアレインボーを持ち出すまでもなく、私たちは生まれてから死ぬまで、いろいろなロールを一つ、あるいは同時に複数を組み合わせて持ちながらライフキャリアを歩んでいます。私たちCDA が、キャリアカウンセリングのマインドや技法を持って関わることができるところは、その全ての部分においてであり、CDA である私たち自身が今まさにいる環境で、働きかけていくことができるのではないでしょうか?
拙い文とだいぶ簡略化した事例紹介となりましたが、CDA の仲間の今後の活動のちょっとした参考になれば幸いです。

※ 1 スーパー(Super,D.E )のキャリア定義①人生を構成する一連の出来事。
②自己発達の全体の中で、労働への個人の関与として表現される職業と、人生の他の役割の連鎖。
③青年期から引退期にいたる報酬、無報酬の一連の地位。
④それには学生、雇用者、年金生活者などの役割や、副業、家族、市民の役割も含まれる。

※ 2 「キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力体系」http://www.mhlw.go.jp/bunya/nouryoku/kyarikon/dl/04_youken.pdf
「環境への働きかけの認識と実践 : 個人の主体的なキャリア形成は、個人と環境(地域、学校・職場等の組織、家族等、個人を取り巻く環境との相互作用によって培われるものであることを認識し、相談者個人に対する支援だけでは解決できない環境(例えば学校や職場の環境)の問題点の発見や指摘、改善提案等の環境への介入、環境への働きかけを関係者と協力して行うことができること。」

野々垣みどりプロフィール
株式会社エマージェンス 代表取締役
亜細亜大学国際関係学部 特任准教授
駒沢女子大学人文学部 非常勤講師
2007 年にCDA 資格取得。行政、企業、大学等の教育機関においてキャリアカウンセラーとしての経験を積んだ後、2014 年3 月に(株)エマージェンスを設立。主に中小規模の顧問先企業でキャリアカウンセリング、キャリア形成支援のための研修ワークショップなどの企画・実施を手掛けるほか、2 つの大学にてキャリア関連科目を担当。2 人の男の子の母で、次男が小学校在学中にPTA 副会長1 年プラスPTA 会長2年を務めた。


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