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【特別寄稿①】いま、求められるがん患者へのキャリア支援~がんになっても人生は続く~

2017年08月07日 17:11 by jcda-journal
2017年08月07日 17:11 by jcda-journal

CDA会員 服部 文

はじめに

いま、がん患者の就労支援が注目されていることをご存知でしょうか。新聞やテレビで盛んに取り上げられています。政府が働き方改革に力を入れるようになり、急速に動きが活発になっています。今年に入り、立野理事長から「CDA地域両立支援推進メンバー」募集のお知らせがあったことは記憶に新しいと思いますが、これもまた仕事と治療の両立支援の一環です。 
私がこの領域に関わるようになり5 年目になります。始めた頃はその必要性が一向に理解されず苦労してきましたが、いまはいろいろな動きがあり過ぎて逆に混乱するほどです。この領域にキャリアコンサルタントの関わりは不可欠だという思いは、ますます強まるばかり。でも、就労支援と言っても病気や医療に関わる領域。この文章を読んでくださっているみなさんの中にも「どうして医療分野にCDA なの?」と不思議に思われる方がいらっしゃるかもしれません。今回は、ジャーナルへの執筆というまたとない好機をいただきました。ぜひCDA のみなさんに知っていただきたいと思います。

 1.あなたも無縁じゃない「働き盛りのがん」

テレビCM で盛んに「生涯で2 人に1 人ががんになる」と言っていますが、あまりピンと来ない方もいるでしょう。もっと年を取ってからのことと先延ばしにしているかもしれません。実はそれもあながち間違いではないのです。がんは遺伝子変異によって起こります。年齢と共に細胞分裂の回数も重なり、DNA の突然変異が蓄積されたり免疫細胞の働きが衰えたりするため、「もっと年を取ってから」のほうがよりがんになりやすくなると言えます。日本が世界に冠たる長寿国であることと、がん大国であることは表裏一体でもあるのです。
とはいえ、CM に出てくる人は決して年配ではありません。雨上がり決死隊の宮迫さん、ミュージシャンのつんく♂さん、女優の原千晶さん。彼らが若くしてがんになったのは、決して特異なことではありません。と言うのも、いま就労可能年齢とされている65歳までにがんになるのは「がんになる人全体の3 分の1」なのです。先ほどの「生涯で2人に1 人ががんになる」ことと合わせると、なんと「働く世代の6 人に1 人」、つまり「働く世代でがんを発症する確率は17%」となるのです。決して少なくない確率ですよね。
近年、医療技術が進み、がんになっても治ったり共存できたりすることが増えました。新薬の開発や副作用軽減のための医療が積極的に行われ、治療をしながら質のいい日常が送れるようになっています。平均入院日数も10 年前の半分程度。抗がん剤投与も毎日の服薬や数週間に一度の通院での点滴が普通です。そんな医療環境の中、仕事と治療の両立が可能になってきたのです。もう、がんになったら終わりという時代ではありません。がんになること自体は避けられなくても、なるべく早期に病変を見つけ、しっかりと治療を受け、がんになってからの人生をどう生きるかに向き合っていく時代になったのです。

 2.この活動を始めたきっかけとCDA の意義

もともと私がCDA を目指したのは、「生き方の選択」にありました。幼いころに経験した兄の死、自身の病気など、成長過程において意思とは関係なく訪れるさまざまな環境の変化の中でそんな志向性が育まれました。
大きな出来事が起こった時、自分のあり方や今後の可能性を十分に吟味し納得できる選択をすることが望ましいのです。でも差し迫った状況だからこそ余裕がなく、自分に向き合う時間も手間もかけられないまま、不本意なその後につながることも少なくありません。
そうした時にこそ共に向き合う第三者の存在が重要であり、そんな支援をしたい。その思いの先にあったのがCDA でした。「人の持つ役割」「生き方」という広い意味でのキャリアの考え方に大きく共鳴しました。
2012 年、国の第2 次がん対策推進基本計画で、がん患者の就労支援が柱の一つに据えられました。それを新聞報道で知った時、これをやりたいという気持ちが自分の中にすとんと落ちてきました。よく耕された土壌に種が一つ落ちてきたような感覚です。みるみるうちに発芽し、成長していきました。
がんをはじめとする大きな病気になったということは、自分自身が揺るぎない生き方だと捉えていた人生が根底から覆るかのような転機です。大きく揺らいだ人生観の中で変化が起こった自分を捉え直し、その後の人生において納得のいく選択をするためにも、私たちキャリアコンサルタントの支援が必要です。単に仕事があればいいのではなく、どのように自分を機能させながら今後の職業人生と向き合っていくか、職場と折り合っていくかということも含めて人生を再構築する必要があるのです。 
当時はまだこんな説明ができるまでに考えを深化させられてはいませんでしたが、膨らむ気持ちに押されるように動き始めました。まずは正しいがん情報を発信する団体、NPO キャンサーネットジャパンで、がん情報ナビゲーターの資格を取得しました。そしてこの分野の研究や活動をしている機関や団体に積極的に関わり、また行政へのアプローチを始めました。国の「がん患者の就労に関する総合支援事業」の役割にキャリコンを加えてほしいと厚生労働省に提言をしたのもこの頃です。この時に立野理事長にご同行をお願いしたことから、東京のPF 砂川未夏さんとのご縁をいただきJCDA 研究会N1「がん等の有病者へのキャリア支援~仕事と治療の両立~」の発足につながりました。
この頃はとにかく支援を始める手がかりを得たいと思っていました。「就労問題を抱えるがん患者」という、確かにいるはずでありながらどこに紛れているかわからない存在を見つけ出さなくては、支援そのものが始まらないのです。それには患者が集まる医療機関での相談窓口だと、前述した国の事業の実施主体となる自治体に働きかけました。ところが結果は散々です。キャリアの概念も現状の問題もまったく伝わりません。担当部署、医療機関と四苦八苦するうちに年度が変わり、担当者の異動でふりだしに戻るといった具合。遅々として進まない徒労感の中、ようやく気づきました。キャリコンならではの就労支援を理解してもらうのは相当に難しい。必要性を認めてもらうためには、実績を積み上げて効果を実証するしかないのではないか。世間の中でキャリコンとはそれほどにまで理解されづらい存在なのだと痛感しました。
自力で実績づくりをするために、団体を立ち上げて助成金を申請することにしました。任意団体「仕事と治療の両立支援ネット~ブリッジ~」の発足です。最初は参加者集めにも苦労する低調発進でしたが、もう後には引けません。支援の傍らイベント出演や原稿執筆はすべて受け、慣れないプレスリリースや学会発表にもチャレンジ。今後の糧となりそうな催しには自腹で出かけ、HP もイベントチラシも支援ツールもすべて手づくり。おかげでこの数年でずいぶんできることが増えました。独立して何かをするということは、自分のキャリア発達をも促すようです。

 3.現在の活動状況

こうして名古屋では、徐々に取り組みが浸透してきました。現在この領域において私の立場は4 つあります。1 つめはブリッジ。行政と連携する機会が増えてきたことから昨年法人化して「一般社団法人 仕事と治療の両立支援ネットーブリッジ」にしました。ここを基盤として患者さん向けのワークショップや就活セミナー、支援者向けの勉強会の開催、また講演依頼を受けたり支援ツールの開発などを行ったりしています。後述する他の立場では制限があって実現できないことをブリッジの活動でフォローし、一連の支援を最後まで全うする役割を担っています。
2 つめには名古屋市のがん対策専門部会の委員。ここで実施したアンケートでも仕事と治療の両立について市民の関心は高いことがわかりました。昨年より名古屋市事業としてがん情報サロンで月1 回の個人面談を実施していますが、現在は一人につき2 回までという制限があるため、拡充に向かうことを期待しています。
3 つめに多職種連携の「がん就労を考える会」の世話人。がん専門医や専属産業医など医療従事者を中心とした連携が目的です。直接的な支援団体ではありませんが、著名な医療者からの発信にメディアの注目度も高いため、さまざまなステークホルダーを巻き込むきっかけとして期待しています。次回6/18(日)からは参加対象に企業が加えられました。現実に即した社会システムのためには就労の現場である企業の意見が必須だとずっと求めてきたことです。ぜひ企業で人事労務を担当されるCDA もご参加ください。
最後に4 つめ、愛知産業保健総合支援センターの両立支援促進員としての活動。ここは厚生労働省の管轄の独立行政法人労働者健康安全機構の一組織で、国の方針としての「両立支援(ここでは復職を意味し離職者は支援対象外です。がん以外の疾患も可)」を推進する役割を担っています。働く場である企業の関心を得ることに長らく苦慮していましたが、これでかなり活動範囲が広がりました。セミナーを県下4 ヵ所で実施したのを皮切りに、企業内教育、啓発や個別調整支援などにつなげる個別訪問を展開しています。

 4.CDAに期待したいこと

こうして、少しずつですが着実に成果を積み重ねてきました。今後の揺るぎないビジョンも持っていますが、そこで圧倒的に足りていないのが、支援者であるキャリアコンサルタントの存在です。がんに対する正しい知識を持ち相談支援を担えるキャリコンを、いまとても必要としています。がんはその個別性が高く、がん種、治療方針、副作用や後遺症が多岐に渡ります。治療に伴う揺らぎやすい状況や気持ちは、患者さんの悩みと直結しています。がんに対する正しい知識を持たずして、目の前の相談者が語ることを理解できません。私自身はもともと医療分野に興味があり骨髄バンクの移植コーディネーター(血液のがんと密接な関係があります)の仕事をしていたことに加え、前述のがん情報ナビゲーターを取得することで基本的ながんの知識を身に着けました。また、がんにまつわる医療技術は日進月歩のため、がん種を横断する学会や医療者向け勉強会にも積極的に参加して最新の知識を得るようにしています。こうした分野に興味や親和性がある方に、ぜひ積極的に関わっていただきたいと考えています。
実は私自身もいくつかの病気や後遺症を抱え、体が強いほうではありません。両立支援を訴えながら、いざ自分が病気になったら活動停止などと洒落にならない状況を防ぐためにも、安心して業務を続けられる体制をつくることが喫緊の課題です。共に団体を運営し業務を分担してくれるパートナーやメンバーを切望しています。意欲のある方はブリッジのHP からぜひご連絡ください。 
このがん患者の就労支援、実は広くダイバーシティの問題でもあります。がん以外の病気だってそうですし、自分でなく家族の病気だってそう。親の介護が心配でない現役世代なんてほとんどいないでしょう。つまり、自分のことであってもなくても、どんな理由であれ、日常生活をしていく上で画一的な働き方ができなくなる局面は非常に多く存在するわけで、高齢化と医療技術の進んだ現代においてまったくその心配がない労働者のほうが、実は少数派ではないでしょうか。この先日本の労働者は減少の一途をたどるのに、個々の働き方に制限が及ぶたびに労働市場からの退場を迫られていては経済全体が揺らぎ、一寸先は闇のような不安に満ちた社会になってしまいます。せっかく医療技術が進歩して病気の先にある日常生活が望めるようになったのに、その生活自体が破壊されていたら何のための治療なのかわかりません。この就労支援によって働く意欲も能力もある人が個々の状況に応じた働き方ができることになれば、健全に労働力や経済が循環する社会をつくり出すことにつながるのです。
働き方改革は過渡期です。急激に変化する現状に賢く対応するための知恵を出し合い、よりよい社会システムの実現に関わることは非常に意義があり、ワクワクするようなやりがいがあります。そんな社会構築の一翼をCDA が担うことができたら実に素晴らしいことではないでしょうか。そのはじめの一歩として、この文章がみなさんにご理解いただくきっかけとなりましたら幸いです。

 服部 文プロフィール
名古屋市在住。1993 年立命館大学卒業後、メーカー系システムエンジニアとして仕事に没頭する20 代を過ごす。30 代で病気や転職などを経験する中で「人が自分らしい人生を選び取るための支援」としてキャリアカウンセリングにたどり着く。現在、がん患者支援の他に(公財)日本骨髄バンク認定移植コーディネーター、夫の経営するクリニックの事務長と3 足のわらじで仕事をする。ここ数年忙しく趣味の八重山諸島一人旅に行けないのが悩み。


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