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JCDAジャーナル

2016年大会特別版 第5号

オリジナル自己分析ツール「自分らしさマトリクス表」に関する研究

2016年08月26日 14:58 by jcda-journal
2016年08月26日 14:58 by jcda-journal
千葉 和久さん(東関東支部)

1.序論
(1)研究の背景と問題意識
養成講座通学時代の同期とCDAの2次試験に挑戦中、自主勉強会で当時いろいろな学習方法を思案しておりました。そのなかで、普段はとても自然に会話できているのにロールプレになった途端、カウンセラーとしてのあるべき姿を強く意識するあまりか、その人の良さが失われてしまうという場面に何度も遭遇していました。その時、自然にクライエントと関わることができる自分らしいカウンセリングスタイルの確立が重要であると実感し、今回ご紹介する「自分らしさマトリクス表」の考案につながりました。chiba03

(2)研究の目的
キャリアコンサルタント・CDA(以下より「キャリアコンサルタント」に名称を統一)実技試験(面接)対策の勉強会において自分らしいカウンセリングスタイルの確立に有効な学習方法として本マトリクス表を推進し、また実際のキャリアカウンセリングを行う現場でも役立てられるよう利用を促進したいと考えております。

2.「自分らしさ」及び関連要素の定義

(1)「自分らしさ」とは?
キャリアコンサルタントの中村仁美はキャリアカウンセリングにおける「自分らしさ」について次のように説明しています。

  • キャリアカウンセリングとは、自己概念の成長を促すものである。
  • 自己概念とは、自分と自分を取り巻く環境をどのように捉えているかということである。
  • 誤解を恐れずに言えば「自己概念」≒「自分らしさ」である。

また、日本におけるエニアグラムの第一人者である国際コミュニオン学会の鈴木秀子名誉会長も著書の中で次のように述べています。
『人間の成長とは、「自分らしさ」を見事に開花させていくことにあるのです。』

つまり各人が「ありたい自分」の実現のために自分らしさの確立が非常に重要であるともいえるのです。

(2)代表的な自己分析ツール
 名称  実施団体  質問数
 エニアグラム  国際コミュニオン学会、NPOコミュニオン  180
 VPI職業興味検査  独立行政法人労働政策研究・研修機構  180
 Clifton StrengthsFinder  Gallup  180

①エニアグラム
互いの違いに気づき、それぞれの良さに触れて、人との深いつながりを築く自立のためのツールです。ありのままの自分を確認し、あるがままの他者を理解して、それぞれが自由になるためのものです。

②VPI職業興味検査
160の具体的な職業に対する興味・関心の有無の回答から、6種の職業興味領域尺度と5種の傾向尺度(心理的傾向)に対する個人の特性を測定します。職業及び働くことに関しての動機付けや情報収集、キャリアガイダンスでの使用等に適した検査です。

③本テストは、自分の才能を特定するための第一歩です。Clifton StrengthsFinderの結果は、スキル、才能、知識の独自の組み合わせ、つまり強みについて話し合い、それを発展させる方法を示します。

(3)自己分析ツールの課題
課題としては、次の3点が挙げられます。
①非簡易性
代表的な自己分析ツールは、教材の事前準備や質問数が160~180問と多数あり、いつ・誰と・どんな場所でもすぐに実施可能という簡易性はありません。結果が判明した際には自己理解がより深まりやすいという効果は期待できますが、勉強会などでは即時性を求められることも多く、時間も限られているため、活用するタイミングの難しさが課題となります。

②バーナム効果
先述した代表的な自己分析ツール以外にも簡易版の性格診断ツールとして、血液型診断や星座占い・動物占い・生まれた順番別なども挙げられるかもしれません。ただ、日本メンタルアップ支援機構の大野代表理事は性格分類について次のように説明しています。
『そもそも人の「性格」というのは、単純に一つのタイプに分類できるようなものではなく、さまざまな要素を複合的に有しています。そのため、誰にでも当てはまることを言われた際、あたかも自分のことをピンポイントに言い当てられているような気持ちになってしまうのです。この現象にはちゃんと名前があり、「バーナム効果」と言います。』

③手段の目的化
1997年にエニアグラムと出会い、友人と二人で朝までお互いのタイプが何であるか、本音を交えて語り明かしたことがありました。それぞれのタイプが判明した時には「こいつはこういう性格なんだな」と互いの理解が深まり、二人の距離がぐっと縮まったことを今でも覚えています。
本来であればこのように自分のタイプを知ることで自己理解を深め、違う考え(性格)を持つ相手を尊重するという目的が重要であり、自己分析の結果はそれを理解するための手段に過ぎません。ただ、どのタイプに該当するかを正解探しのように利用されてしまう側面もあり、「手段の目的化」によって肝心の目的意識が薄れている現状も否めません。

3.自分らしさマトリクス表のご紹介
(1)自己分析(タイプの特定)
まずは直感で自分がマトリクス表にあるA~Dのどのタイプ(部屋)に該当するかお選びください。
そして部屋のどのあたりにいるかあたりをつけます。
(参考までに私はタイプBで「気さく」と「ぐいぐい」の要素が強く右上の角あたりです)「自分らしさ」マトリクス表
(2)縦軸と横軸の解釈(質問)
もし特定が難しい場合は、次の2つの質問にお答えください。
①横軸:ぐいぐいか控えめか
【質問1】交流会や飲み会など人の集まるところでのご自身について
・比較的目立ちやすい、話の中心になっていることが多い→ぐいぐい
・相手の話を聞く方が楽、そもそも行きたくないし、出来れば早く帰りたい→控えめ

ぐいぐいはおせっかい焼きともいえます。
控えめはおとなしいと相手に伝わることもあります。

②縦軸:マジメか気さくか
【質問2】人前で話した後やロープレ後に
・「緊張してたね」とよく言われる→マジメ
・「緊張してたの?」とよく言われる→気さく

マジメは真剣さから硬さが伝わることもあります。
気さくはのんき・朗らかであるともいえます。

(3)タイプ別の解説
①A:スマイル保育士タイプ
いつも笑顔で人当たりもよく話を聞いてくれるが、どこか一線を引いている側面も。
・このタイプの共通する問題点:共感していないと思われやすい

②B:敏腕セールスマンタイプ
「これオススメよ!」といつも相手のためにと一生懸命だが、干渉しすぎるのがたまにキズ。
・このタイプの共通する問題点:問題解決型になりやすい

③C:孤高のアーティストタイプ
職人気質で近寄りがたい雰囲気に周囲から一目置かれているが、「俺を一人にしてくれ!」とあまり人に関わりたくないという側面も。
・このタイプの共通する問題点:冷たい印象を与えやすい

④D:ベテラン刑事タイプ
面倒見がよく親分肌であるが、白黒ハッキリさせたいあまり相手を問い詰めてしまうことも。
・このタイプの共通する問題点:事情聴取になりやすい

(4)活用の前提条件目指すべき方向性
このマトリクス表で伝えたいことはシンプルです。

「クライエントが主役であること」

だからこそこの矢印の先に目標があるのです。普段は個性的な方でもクライエントの前では脇役に徹する必要があります。基本的に部屋の移動はできませんが、どのタイプも「目標」に近づけるように意識することが重要なのです。決して、タイプを分類することが目的ではありません。
最後に注意点としては、ロープレ・カウンセリング中に「目標」を強く意識してしまうと誘導型になってしまう可能性があるので、カウンセリングに集中することで結果「目標」へ到達することが望ましいのだとお考えください。

4.結論
(1)評価
活動により得られた成果は以下の4点になります。
①「クライエントが主役である」という考え方の理解が深まりやすくなる。
②自分らしさ≒自己概念を大まかにでも知ることで自分自身を受け入れやすくなる。
③自分とは違うタイプがいるということを認識することでクライエントを受容しやすくなる。
④キャリアコンサルタントが自分らしいカウンセリングスタイルを確立することでクライエントにとって最適な行動変容が起こりやすくなる。

(2)課題
課題は以下の2点です。
①まだデータの根拠となるサンプル数が少ないため、今後は検証を実施できる環境の開拓や本ツールの開発に協力してくれる賛同者を増やすことで質問項目や回答などから得られる結果に対する情報の精度上げていきたいと考えています(現在、Web上でのアンケート調査を9月までに実施する予定です)。
②またカウンセリングにとって、自分らしさが重要であるという根拠が薄いため、今後は先行研究や検証データを収集・分析することで、より説得力のある自己分析ツールにする必要があると考えています。

(3)今後の方向性
今後の展望としては、現在の活動が勉強会における本ツールの活用にとどまっておりますので、キャリアカウンセリングの現場でも利用が可能か検討し、本マトリクス表を広く普及することで、ひとりでも多くのキャリアコンサルタントが自分らしいカウンセリングスタイルでクライエントに寄り添えるようサポートしていきたいと考えております。

研究はまだ道半ばです。改めてキャリアカウンセリングの奥深さを実感しています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さまのキャリアカウンセリングの一助になれば幸いです。

引用・参考文献
Gallup「StrengthsFinder」https://www.gallupstrengthscenter.com/Home/ja-JP/Index
国際コミュニオン学会、NPOコミュニオン「エニアグラムとは」http://www.enneagram.gr.jp/index.html
独立行政法人労働政策研究・研修機構「VPI職業興味検査」http://www.jil.go.jp/institute/seika/tools/VPI.html
大野 萌子「なぜ人は「性格分類」に翻弄されてしまうのか」http://toyokeizai.net/articles/-/105782?page=2
(著者)カレン・ウェブ(翻訳)鈴木秀子(1999)『9つの「性格タイプ」がわかる! : 図解エニアグラム』三笠書房
(著者)カレン・フェラン(翻訳)神崎 朗子(2014)『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』大和書房

プロフィール
筆者 千葉 和久
活動場所 主に東京都内を中心にCDAの2次試験対策およびキャリアコンサルタントの実技試験対策勉強会を活動の場としています。
活動領域 キャリアカウンセリングを実施する方とキャリアコンサルタント・CDA等を志す方(資格取得希望者)に対するサポートが対象です。
活動歴 2015年7月~
その他

1973年 北海道生まれ
現職はIT企業の企画室という部署で会社の業績管理や事業戦略の策定に携わっています。
資格取得の動機は中小企業診断士の勉強をしているときに出会った一冊の本がきっかけです。「コンサルティングにおいて重要なのは、方法論やツールではなく、対話である」という一節に感銘を受け、コーチングやカウンセリングの重要性を実感し、キャリアコンサルタント(CDA)を志しました。


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