バックナンバー(もっと見る)

2017年05月号 vol.63

【特別寄稿①】 いま、求められるがん患者へのキャリア支援 ~がんになっても人生…

2017年01月号 vol.62

【CDAインタビュー】 看護師、看護職員教員をへて、 看護職専門のキャリアカウ…

2016年11月号 No.61

【CDAインタビュー】 「知識提供型」から「共感・体感型」へ ~参加者が企画者…

JCDAジャーナル

2016年大会特別版 第3号

全ての医師・医学生がキャリアを自己決定できるように

2016年08月18日 15:36 by jcda-journal
2016年08月18日 15:36 by jcda-journal
賀來 敦さん(中国・四国支部)

賀来私は、全ての医師・医学生が、自身の価値観や興味・関心に基づいて将来を選択できるようにするためのサポートをしていきたいと考えています。しかし個人での活動には限界が大きく、支援を拡大していくためには、医療系従事者・学生のキャリア支援に携わるCDAの人的ネットワークの構築・情報共有の場の構築が必要だと最近感じています。

医師のキャリア形成は、いままで大学医局を中心に行われてきました。 若手医師(研修医)の大部分は「医局」と呼ばれる非公式組織に所属し、その後「医局員」として医局の指示に従い、働き、専門医資格を得、研究に従事していました。しかし、医師免許取得後2年間の研修を義務化する制度(医師臨床研修制度)が2004年度から開始され状況は一変しました。制度の変更によって、医学生は自分で行きたい研修病院を探し、就職試験(マッチング)を受けることができるようになりました。医学生は、説明会や病院見学で情報収集をし、自分が一番良いと思う研修病院に応募するという、一般企業の就職活動に似たプロセスを経るようになったのです。結果的に研修病院の自由市場化・若手医師の全国的な流動化が促進されています。
さらに今年度から開始が予定されている、専門医資格を取得するための研修の制度化(新・専門医制度)によって学生・研修医の選択肢がさらに広がり人材の流動化が加速すると思われ、多くの選択肢の中から自律的に将来のキャリア確立を促すキャリア教育の必要性が高まってきています。

しかし医師不足により人材を欲する組織・団体(医局・地方病院・各専門医学会)の各種利害関係の中で、医学生・研修医へのキャリア支援はリクルート活動の側面を持ちます。そのため中立な立場で医学生自身の選択の自由を容認したキャリア教育やキャリアデザイン教育は提供されにくい現状が存在します。
医師として現場で働き続けることを目的とするあまり「医師職への興味の低い女子学生は結婚後の仕事継続意思が弱い」などの言説や、医学教育のなかで「キャリアを優先させた選択の重要性」を強調し、「就業を継続していくことを強く意識させる教育」の推進が必要であるとの声明・コメントが複数の団体から推奨される問題が生じています 1-3)
更に出身大学の附属病院への就職(マッチング)者数増大を目的にした就職ガイダンスが医学部のなかで行われたり 4)、学生自身の人生よりも地域医療への貢献を強く推奨する進路指導などの取り組みが医学領域では存在し、種々の利益相反の中でキャリア教育者に求められる倫理が医学教育の現場で遵守されていないという問題が顕在化してきています。

これらの問題が生じる原因の一つに、医学教育に非医療系専門職の参入が困難である風土の存在が考えられます 5)。総合大学には一般的に多学部向けのキャリアセンターが存在し、CDAも支援にかかわってますが、医師キャリア教育支援センターは医学部・大学病院に独自に存在し 6)、医師キャリア教育はおおむね医師だけの手によって担われています。この様にキャリア教育の専門家であるキャリアアドバイザーの、医学領域におけるキャリア教育へのコミットは困難な現状が存在します。
結果、大学医学部では進路指導として病院説明会や医局説明会等は開催されていますが、系統的なキャリア教育は未発達です。50大学の医学部ではキャリア教育を担当する部署の設置意思がなく、部署を有する大学は現在22大学に留まり、その場合も教育内容は医師としてのワークキャリア・ワークライフバランスが中心で、かなり偏っています 6)

一方、キャリア支援ニーズは大きく存在します。私がまだ医学生5年生の医師臨床研修制度が始まった頃の話です。過去に一般的な就職活動を経験し、営業マンとして働いた経験があった私は、当時はじまったばかりの医師臨床研修制度の就活プロセスにすんなり入っていけました。しかし、周囲を見ていると、どうもノウハウを持っていないようでした。そこで試しに「病院見学への行き方」「研修分野の選び方」といったテーマで昼休みにミニレクチャーをしてみると、学年を超えて50~60人が集まったのです。これは結構ニーズがあるぞ、と初めて感じた瞬間です。その後、妊娠・出産をきっかけに妻が離職し現場復帰困難になったことから、女性医師の離職・復職問題に注目するようになりました。医師のキャリア形成支援・キャリア教育の重要性を再認識するようになり、CDAの資格を取ったのもこの時です。kaku02

医師のキャリア形成は特殊であり、一般的なキャリア支援の適応は困難であると思われがちですし、実際に医師や医学部教員の方にそう思っていらっしゃる方は多いと思われます。しかしそのようなことはありません。確かに医師のキャリア形成プロセスには一般的な企業への就職プロセスと異なるところは存在します。しかしキャリア支援の根本的な目的である「ライフキャリアにおける様々な役割(ライフロール:個人・余暇人・地域人・学習者・職業人)を統合しバランスを図りながら、個人の自己概念(価値観・興味・能力)を基盤にして、個人の人生目標の実現すること」は同じです。医師のキャリア形成プロセスが特別なのではなく、キャリア形成形態の1亜形に過ぎないことを理解し、プロセスのなにがどう異なるのかを認識したCDAであれば支援活動は可能であると思います。

現在、私は医師とCDAの双方の資格を有するものとして、医学生・医師自身のキャリア選択の自由の容認と擁護を基盤とした、キャリア支援活動を展開しています。しかし医学界において、キャリア支援は未開拓の分野であるため活動領域は多岐にわたらざるをえません。活動の例を幾つかあげていきます。
医学生対象としては、医師のキャリア形成の特殊性を反映させた、キャリア教育プログラムの開発を東海大学のCDAと共同で実施し、開発したプログラムの医学生への提供を試みています。kaku03

また日本の医学界への正しいキャリア支援の概念の普及を目的に、各種医学関係専門雑誌に掲載される医師のキャリアに関する意見・論文・研究に対してコメントの投稿をおこなっています。CDAとしての知識・技能をもつものにとっては、明らかに間違っている概念や考え方を掲載している医学論文・医学雑誌が多く、一つ一つエビデンスをもとに訂正しletterとして投稿していく作業は気の遠くなるような作業です。
また中堅医師・医学教育関係者を対象にした、キャリア支援ワークショップも開催しています。とくに各種組織・団体(医局・地方病院・各専門医学会)が適切な方法で個人のキャリア形成を支援するための方策「組織内キャリアマネジメントと個人のキャリア支援の統合に必要なキャリア理論の理解と実践」をテーマにしたWSを中心に実施しています。日本プライマリ・ケア連合学会学術集会では2年連続、学会主催のワークショップとして採択されました 7)。また、同学会学術集会内の展示企画『キャリアcafe』内にて、キャリアアドバイザーとして常駐し、個別相談会も行っています 8)kaku04

さらに臨床研修病院での指導資格の取得に必須である「臨床研修指導医講習会」において、医師歴8年目以降を対象に、キャリアデザイン・キャリアマネジメントの必要性の認識を進めるためのWSを行う機会をいただけるようになりました 9)が、まだまだ普及が必要です。

今後は、医学生のキャリア支援カリキュラムや医師の自律的キャリア開発プログラムを完成させ、CDAであれば誰でも使用可能な形で普及させていきたいと考えています。しかし利害関係が存在する中で、医学生に対するキャリア支援活動の協力者は現在限られており、活動領域の拡大に限界を感じるようになりました。今回の大会をきっかけに同じような問題意識や活動を行っているCDAと連携を取り、今現在、系統的なキャリア支援を持たない医師・医学生に対しての取り組みを深めていきたいと思います。

もし、医学・医療系領域に携わっているCDAがおられましたら、夢カードやFacebookなどでご連絡ください。ネットワークづくりから始めていきませんか?よろしくお願いします。

参考文献
1)日本医師会:男女共同参画やワークライフバランスについての講義の医学部教育カリキュラムへの導入促進について
http://www.med.or.jp/nichinews/n220920f.html
2)女性医師キャリア教育における学習目標. 医学教育2015,46(3):211-216
https://www.ajmc.jp/download/jyoseiishi-26.pdf
3)公益社団法人日本女医会:提言論文受賞論文http://jmwa.or.jp/teigen/index.html
4)川崎医科大学におけるブース形式診療科別説明会の学内開催 川崎医学会誌. 一般教養篇 41, 33-40, 2015
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009989124
5)日英医学教育の現代的課題と非医療系教育専門家の可能性. 京都大学生涯教育学・図書館情報学研究 2011;10 :37–59.
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/139416
6)全国医学部長病院長会議. 平成25年度医師のキャリア形成に関連する医学部教育の実態調査.
https://www.ajmc.jp/pdf/25.11.21sasshi.pdf
7)医学生・若手医師の系統的キャリア形成を考えるワークショップ. 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2016: 39(4), 掲載予定
8)「キャリアCafé」開催報告. 日本プライマリ・ケア連合学会誌2015: 38(4), 406-411,
http://ci.nii.ac.jp/naid/130005117743
9)第18回東海大学臨床研修指導医養成講習会:ワークショップ報告「研修医のキャリアデザイン」. 医学教育2015, 46(6):509-510

プロフィール
筆者 賀來 敦(カク  アツシ)
活動場所 学会・大学
活動領域 医学界
活動歴 医学系学会でのキャリア支援ワークショップ開催
臨床研修指導医養成講習会でのキャリア教育担当講師
医師のキャリアに関する研究
医師・医学生に対する個別キャリアカウンセリング
その他

社会医療法人清風会 岡山家庭医療センター
2000年岡山大学院薬学研究科薬学専攻修了。2008年旭川医科大学卒業。千葉県での勤務中に、妻が妊娠。夫婦ともに医師として働き続けられる環境を探し、岡山家庭医療センターに転職。同時期に、勤務と並行してCDA取得。

医師(家庭医療専門医・指導医)
日本プライマリ・ケア連合学会 代議員
日本医学教育学会 生涯・キャリア教育委員会 委員


JCDAホームぺージ

関連記事

被災地支援_自分と社会が、自己概念で繋った人生へ

2016年大会特別版 第6号

ありたい姿に寄り添って夢を実現する〜女性がより生きやすくなるために〜

2016年大会特別版 第6号

【 キーパーソン21】~子どもたちのわくわくエンジンを引き出す~

2016年大会特別版 第6号

読者コメント

コメントはまだありません。記者に感想や質問を送ってみましょう。

バックナンバー(もっと見る)

2017年05月号 vol.63

【特別寄稿①】 いま、求められるがん患者へのキャリア支援 ~がんになっても人生…

2017年01月号 vol.62

【CDAインタビュー】 看護師、看護職員教員をへて、 看護職専門のキャリアカウ…

2016年11月号 No.61

【CDAインタビュー】 「知識提供型」から「共感・体感型」へ ~参加者が企画者…