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JCDAジャーナル

2016年大会特別版 第4号

キャリアカウンセリング的“アカデミック・アドバイジング”   ~ライフテーマに沿った社会人学生のキャリア支援~

2016年08月26日 14:55 by jcda-journal
2016年08月26日 14:55 by jcda-journal
井出 久美さん(西関東支部)

●活動の概要
私は某私立大学(以下、本学という)の通信教育課程で学ぶ社会人学生に対して、キャリアカウンセリング的"アカデミック・アドバイジング”によるキャリア支援を行っている。
これは、30代から40代を中心とした本学の社会人学生が、ライフテーマに基づいた中長期的なキャリア形成が有効にできるよう支援することを目的とした活動である。大学卒業までの2年間の学習活動が有意義になるよう内的キャリアも重視した履修科目の相談や学習支援を行い、卒業後も一貫した学びが継続できるよう方向づけしている。

●生涯学習時代にさまよう、キャリアの方向性のない「学び」
変化の激しい現代社会では、仕事をし続けるため、また豊かな人生を送るためには生涯学び続ける必要があるが、一方で、インターネットやSNSの発達により情報過多で、学びに関する情報はあふれているため、何らかの指針が無いと選択に戸惑うことになる。
そのような社会では「自分も何かを学ばなければ」という焦燥感が先行し、自分のキャリアの方向性に確証を得ないまま、現在の仕事や役割の延長だけで学ぶ領域を選択したり、社会の風潮に流され資格取得の勉強に取り組むことが多く見受けられる。しかし、自分が真に求めている学びでないと、いずれ学習意欲を喪失し、学びが行き詰まってしまうことも多い。
自分のキャリアの方向性やそのために必要な学びについて、一個人で考えるには限界がある。ならば、キャリア支援者たるCDAこそがそこに積極的に関わることができるのではないか。生涯にわたる長期的な学びと成長のために、内的キャリアも重視した「キャリア目標実現のための学び」を支援すること。これこそが生涯学習社会におけるCDAの支援分野の一つなのではないかと考えられる。ide

●キャリアは1日にしてならず!
長期的な学びの支援にキャリアカウンセリング的"アカデミック・アドバイジング”
本学は経営やマネジメントを中心に学ぶ私立大学の通信教育課程であり、短期大学や専門学校卒業生がいったん社会に出た後、3年次編入する者が全体の約8割と大多数を占める。よって、本学の学生の多くが2年間で大学の卒業を目指す。
私は、年間約300人の問合せや相談に応じてきた経験と自分自身のさまよえる学びの経験から、彼ら中堅社会人のキャリア形成支援にキャリアカウンセリング的アカデミック・アドバイジングが有効だと感じている。
そもそも「アカデミック・アドバイジング」とはアメリカの大学教育において様々な背景をもつ学生に対して行う学習支援の一環で、学習に関連する情報の提供と履修指導・相談を指すが、単なる履修指導・学習支援にとどまらず、生涯にわたるキャリア発達という視点を重視したものといえる。
そこでキーになるのはライフテーマである。サビカス(Savickas,M.L.)はライフテーマをキャリアを方向づけるものとして、「なぜその仕事を選択し、どのような意義を見出しているかなど個人が重視していること」としている
つまり内的キャリア(価値観・動機・欲求)に基づいた一貫した学びを生涯にわたって継続させることにより長期的なキャリアの形成を支援するキャリアカウンセリング的アカデミック・アドバイジングが重要になると考えるのである。

●ライフテーマは学びの「金の糸」
このアプローチにより、社会人学生が自分のライフテーマを意識することにより、真に自分に必要な学びを選択し、限られた時間やパワーをそこに集中させることができるといえる。さらに、学びを自律的に選択し取り組んでいるという実感から、内発的動機づけが期待できる。動機づけられた学びは習慣化し、継続され、生涯にわたる長期的な学びの積み重ねがキャリア形成に寄与すると考えられる。いわば、過去、現在から未来へと一貫した、学びの「金の糸」を育む支援ともいえる。

●キャリアカウンセリング的アカデミック・アドバイジングの手順
実際の形式は、本学の社会人学生に対して行っているのは、一対一の対面または電話でのカウンセリングで、基本的に次の7つのステップとなる。対面の場合はSTEP1から5を1時間程度かけて行い、学生の要請に応じてさらにSTEP6から7を行っている。

◇STEP1:現在の職業・仕事状況の聴き取りにより、外的キャリアを把握する。
初対面でいきなり内的キャリアの話を引き出すことは容易ではないので、まず外的キャリアの大枠を把握する。現在の職業・仕事からホランドのRIASECをおおよそ見立て、普段どういった職場環境で、どういった活動が中心かを把握する。

◇STEP2:学習動機から内的キャリアを探り、ライフテーマを見出す
大学で学ぼうと考えるに至った学習動機を問いかけ、その応えの中から内的キャリア(価値観、動機・欲求)や本人が気づいていない持ち味や強みを探る。さらに、学生の自己語りの中からライフテーマを見出す。

◇STEP3:ライフテーマに沿ったキャリア目標を設定する。
外的キャリアと内的キャリアを踏まえ、2年後(大学卒業)のキャリア目標を設定する。その際、ライフテーマをキャリアの方向性ととらえ、そこへ向かうプロセスとして2年後のイメージを描く。

◇STEP4:キャリア目標をベースに履修科目を決定する
2年後のキャリア目標を実現するために必要な能力とそのための学習内容を検討し、履修科目を決定する。授業科目の内容やその学習により向上するであろう能力を説明し学生の意向とをすり合わせる。

◇STEP5:学習順序を検討する
通信教育課程では1年分の履修科目が決定した後、学習順序は各人に委ねられている。そこで、学生の学習動機の強弱やレディネスに合わせた学習の順番を推奨する。

◇STEP6:認知心理学の知見を生かし、学習活動を具体的に指導する
学習活動に不安を感じる学生に対しては、学習活動を具体的に指導する。学習に対してネガティブな思い込み等の認知の歪みがあれば修正する。また学習活動の自己効力感を高めるため、今までの学習経験を直接的経験として掘り起したり、先輩学生の学習活動を観察できるよう代理経験の場づくりも行う。

◇STEP7:フォローアップと強化
学生の要請によって、内省を促すフォローアップと動機づけの強化を行っている。その際、学生のライフテーマに沿って進んでいる事象や得られた成果に対して承認や賞賛により動機づけの強化を行う。場合によっては履修科目の見直しを行う。

●事例の紹介

Ⅰ.歯科衛生士のAさん(30代女性)
面談当初、「新人歯科衛生士を指導するために、部下指導力やリーダーシップを学びたい。」とのことであったが、面談が進むにつれ、「将来、歯科医院の経営コンサルタントになって、患者様に喜ばれる歯科医院を増やしたい。」という夢があるとのことがわかった。
そこで、医療福祉マネジメントやサービスマネジメントの関連科目を提案したところ、「本当に夢に近づきそう。」と喜び、できそうな科目から段階的に履修することとなった。

Ⅱ.社会福祉施設勤務のBさん(40代女性)
面談当初、「カウンセリングを勉強してカウンセラーの資格を取りたい。」とのことであったが、面談が進むにつれ、「将来、高齢者が気軽に立ち寄ってもらえる"茶飲み場”的カウンセリングルームを自宅に開設したい。」とのこと。
そこで、カウンセリングの他、ビジネスプランや健康生きがいづくりアドバイザー資格等の履修科目を提案したところ、Bさんは「今の仕事にも、カウンセリングルームの開設にも必要な科目なら効率的に学習できそう。」と喜び、それらの科目を履修することとなった。

(なお、上記の事例は、主旨が伝わりやすくするため、複数の事例を再構成したものである。)

●キャリアカウンセリング的アカデミック・アドバイジングの重要性
キャリアは一時の学びで容易に形成されるものでなく長期的な学びが必要と考えると、社会人学生が自分のライフテーマに気づき「学びの羅針盤」を手に入れることは、内発的動機づけを喚起し、長期にわたる学習継続をもたらすことになる。それにより真に求めるキャリアの形成が促進されることにつながると考える。さらに、内的キャリアを重視することにより、職業上のキャリアだけでなく、ライフ・キャリアという視点からトータルな人生設計を支援することにつながる。
こうしたキャリアカウンセリング的アカデミック・アドバイジングは、教育分野におけるキャリア支援のあり方の一つであり、今後、キャリア支援者たるCDAが担う社会的役割の一つとして、アカデミック・アドバイザーの存在は重要になってくるであろう。

<参考文献>
ⅰ.清水栄子(2015)「アカデミック・アドバイジング その専門性と実践―日本の大学へのアメリカの示唆」(東信堂)p.5-11
ⅱ. 二村英幸(2009)「個と組織を生かすキャリア発達の心理学 自律支援の人材マネジメント論」(金子書房)p.50 

プロフィール
筆者 井出 久美
活動場所 私立大学(通信教育課程)
活動領域 教育分野(社会人学生のキャリア支援)
活動歴

・短大生の就職支援、社会人のキャリア形成支援(以上、私立大学にて)
・転職フェアにおけるキャリアカウンセリングブース担当、小学校のキャリア教育支援、子育て終盤女性のキャリア支援、リタイア後の社会活動支援、2級キャリアコンサルティング技能士受験対策指導、キャリア理論勉強会主宰等(以上、ボランティアとして)

コメント

1969年横浜生まれ。CDA1期生・2級キャリアコンサルティング技能士。大学卒業後、私立大学に勤務し短大生の就職支援に従事。独学で得た心理学やカウンセリングの知識と経験だけで学生に関わっていたが、経験則でのキャリア支援に疑問を持ち、体系的に学ぶ必要性を感じていたところ、CDA資格の誕生を知り、1期生として2001年にCDAを取得。その後、通信教育課程の修学支援部門へ異動となり、以来、社会人学生の履修指導、学習支援を行っている。
これまでは仕事と家事・育児が優先だったため、CDAとしての活動は限られたものだった。何かしなければという焦燥感からやみくもに資格取得に走ったが、その学びに方向性は無く、単なる自己満足で終わった。その空しさの行き着いた先は"キャリアの方向性の無い学びは一過性の自己満足で終わる。無駄にはならないが力にもならない。”との気づき。
子育てが一段落した今、この失敗経験を活かし、社会人の学びと実践のスパイラルアップを目指し、グループラーニングの場づくりを推進していく予定である。


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